内容
学校から帰宅したら、家財道具が差し押さえられていた中学生の裕。
兄と姉と途方に暮れる中、父の「家のほうには入れなくなりました。(略)これからは各々頑張って生きてください。…………解散!!」の言葉と共に、家族と離れ一人公園で野宿することになるが、友人の心優しき両親の手助けの元、兄・姉とアパートで生活できることになる。
友人、その両親、近所の人、先生。他人なのに、裕に、兄や姉に、差し伸べてくれる手。
若くして亡くなった母への、自分達を置いていった父への、愛情と感謝。
お笑い芸人・麒麟の田村裕の、面白くも切ない、自伝的小説。

動機
いわずと知れた、2007年度の大ベストセラー小説。
昨年最大の話題作と言うだけではなく、作者が、バラエティー番組にゲスト出演していた際、“まきふん公園”に寝泊りし、“ダンボールを食べた”話などを語っていて、かなり前から大まかな内容は知っていました。
インパクトが強く、しかも考えようによってはかなり重い話ですが、番組は大笑いでした。
番組上そうしたということもあるでしょうし、話しているのがお笑い芸人さんということもあるでしょうが、本当の話なの? 作り話なんじゃないの? と思わせるほど軽妙でした。
その中学時代から今に至るまで、が本になったと知り、読みたいと思いつつも、それでも購入する気にはならず^^; 図書館で順番待ちをしてようやく、読むに至りました。

感想
一文一文が長くても3行と短く、(こんなこと書くのは失礼なのですが)「〜けど、〜けど、〜けど」と続く文章があるなど拙く、1日で読めてしまいます。
でもその分、飾りの無いシンプルな内容になっていますし、感情がストレートに伝わってきます。

作者の子供時代の逞しさが、公園での野宿生活では十分に発揮されています。
この本自体のページ数もそれ程多く無く、野宿生活が1ヶ月程度だったそうなので、インパクトのある話だけを書いているのでしょうけれど、一番印象的なのは、ウンコみたいに見える滑り台で寝ていたことから、「ウンコのオバケ」と呼ばれて子供たちから石を投げつけられる話です。
数人集まると子供って残酷なことをしますけれど、ひどい話です。それを「ウンコの神様やぞ! バチが当たるぞ!」「全員下痢にしたるからな!」と逆襲して追い払います。その数日後、朝目覚めると一枚の紙が。「下痢が止まりません、どうしたらいいですか?」
読んでいて、思わず噴出してしまいました。…それにしても、ウンコウンコって、随分書いていますね^^;

親がいなくなり頼るすべも知らない兄弟達のために手助けをしてくれる人たち。その温かさは、他人からであったり、もう何年も付き合いの無い親戚からのものなのです。
子供の頃に亡くなったお母さんへの思いは胸を打ちますし、自分達を置いていった父親へも怨むことなく感謝している姿には驚きすら感じます。
兄は優しく、姉は(時々行き過ぎた感もあるけれど)厳しく、弟の事を見守っています。一人っ子の私は思わず、きょうだいが欲しくなりました。
生活保護などで進学できた裕少年は、明るいムードメーカーでありながらも、心のうちで寂しさや虚しさを抱いています。自殺すら考えるほどに。それを大きく変えたのも、他人である担任教師でした。
大変な経験ですが、残念ながらあまり人間関係に恵まれない私からすると、羨ましさすら感じます。
その後お笑い芸人の道を選ぶ裕少年。その影にも亡き母が、兄の存在があります。そしてその後コンビを組む相方も。

人間を大きく変えるのは、やはり人間なのだと思います。
なにより、父や母に感謝して何かしたくなる。そんな1冊です。

memo
「全てのことは繋がりがあって、思いやりの行動はいつか必ず良い結果を生み出すのだろう。(133頁)」
「僕は、お湯に感動できる幸せのハードルの低い人生を愛しています。(190頁)」
幸せは人それぞれ。色んな形があって然るべきだと言う当たり前のことを実感しました。

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