内容
たった一人の肉親である母を亡くした10歳の少女・シルバーは、灯台守のピューに引き取られる。
ピューは目が見えないが、燈台守として火を守り続けること以上に、物語を語り続けることを大事とした。

100年前スコットランド北西の港町・ソルツに生きた牧師、バベル・ダークの物語を、ピューは話し始める。
バベル・ダークは、ソルツでの聖職者としての生活(しかし妻を見下していた)と、ブリストルでの偽名での生活(かつての恋人と数ヶ月過ごしている)という二重生活を苦悩のまま続けていた。
神への信頼も自分自身も見失い、結果選んだものは。

灯台が無人化されることになり、ピューと離れ、ピューの物語を通じて知った“愛”を求め探す旅に出るシルバー。

バベルとシルバーの物語は交差し、最後に灯台でシルバーは「一条の光」を見出す。

動機
某ネット書店内をネットサーフィン中に見つけました。
レビューが好評だったため、図書館から借りてみました。

感想
“非常に感覚的”な1冊だと思いました。
そして、私は「感覚」を大切にしてはいるけれど、論理的な人間なんだろうなと思わせられた1冊です。

今どこで何が、というのは曖昧な部分があります。
シルバーが出逢った恋人も唐突に登場します。アルツハイマーの妻がいる男性らしい、ということくらいしか分かりません。
あれ?と思って何度も頁を遡ってしまいました(笑)。

こういう作品は、このような点を重要視しては先に進めないんですよね。

欲しいもの(喋る鳥や本など)は盗ってでも手に入れてしまうような、シルバーの純粋さというか率直さは自分からは遠いところにありますが、常識に捕らわれず価値観を押し付けない柔軟さと繊細さは共感しました。

翻訳が良いこともあるのでしょう。比喩が多用されていますが、とても魅力的です。
特に最後の恋人との愛を交わす場面は美しいです。

「行動の末、自分で選び取った」ということが大切な人と、「プロセスや心の動き」に注目してしまう人とがいるのではないでしょうか。
私はどうも後者のようです。

memo
それもまた一つの話だ。自分を物語のように話せば、それもそんなに悪いことではなくなる(35頁)

ジ・エンド。また新しく物語を始めなきゃ。顔を上げろ。前進あるのみ。けっして後ろを振り返るな。後悔したって始まらない(203頁)

わたしを開いて。大きく。小さく。わたしをくぐって。向こう側にあるものは、そうすることでしかたどり着けない。この、あなた。この、いま。生のはてまでつらなる、この、とらえられた一瞬。(229頁)

わたしたちは幸運だ。たとえどん底の時でも。ちゃんと夜は明けるのだから。(241頁)

わたしの体は、ジャコウネコと家猫とでできている。
この野性の心と人恋しい心のあいだで、どう折り合いをつければいいだろう? 野性の心は自由を求め、人恋しい心は家に帰りたがる。ぎゅっと抱きしめて欲しい。(あまり近くに寄らないで。)夜になったらわたしを抱きあげて家に連れてかえって。(誰にも居場所を知られたくない。)誰にも見つからない岩のすき間に隠れていたい。(あなたといっしょにいたい。)(209頁)

「自分自身をつねにフィクションとして語り、読むことができれば、人は自分を押しつぶしにかかるものを変えることができるのです」―これは『ガーディアン』紙のインタビューでウィンターソンが語った言葉だ。(訳者あとがきより/248頁)

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