内容
“エンブリオ”とは受精後8週間までの胎児のこと。
サンビーチ病院長・産婦人科医の岸本は学会に背を向け、画期的な不妊治療を行っていた。
男女の産み分け。亡くなった夫の精子を使った人工授精。夫が原因で妊娠できない場合は無断で自分の精子を使って妊娠させる。さらには男性腹腔内妊娠の挑戦…。

それだけではない。
人工中絶した胎児の臓器は臓器移植に使われる。胎盤をクリームにして販売もしている。

パーキンソン病治療のために、胎児を人工中絶してその細胞を脳に注入させたりもする。
これは患者である父親を助けるためだけに妊娠させるのだ。

天才医師・岸川の光。そして後半明らかになる闇。
生殖医療の今後を考えさせる内容です。

動機
新聞の書評で、『インターセックス』と言う本が紹介されていました。
作者は元テレビマンで、現在は精神科医でもあるのですが、医師による性同一性障害を扱った小説と言う興味深い内容だったので、図書館で予約しました。

その『インターセックス』は続編だということを後から知りました。
ではその前に書かれた『エンブリオ』も先に読んでおこうと、こちらも図書館で予約。
単行本だと重いので、文庫本で通勤途中に読んでいました。

感想
何と言うか…。
読み終わった感想を一言で言うと、 なんかイヤ、すごくダメ、どうしても苦手!

クールと言うべきなのか、心情描写が殆どありません。
今起こっていることを中心に書いています。
感覚的といえば聞こえはいいけれど、一方的な比喩もないので読みやすいのですが…。

画期的な生殖医療のみならず、岸川と女たちの関係も書かれています。
その描写・会話からにじみ出る“ねっとり感”が苦手。

登場する岸川の恋人の描写も、みんな似たようなタイプばっかり。
女優や専業主婦から人材派遣会社を起こして軌道に乗せた社長など、有能そうな肩書きなのに、“美人、色白、豊かな乳房”など、実に単純な表現が目立ちます。

会話も、セレブ(?)の会話ってこんな感じなの?
本ですからもちろん文字だけですが、声をつけたら甘ったるそう。
こういう女性が作者の好みなんでしょうが、どれも有能そうな感じがしないんですよ。
岸川が、何処に惹かれたのかも書かれていないので、余計にそんな印象なんだと思います。
最も、本当に賢い女性って、いくつも仮面を持っていて、相手や状況に応じて使い分けるのかも知れませんね。

岸川の考えは、まさしく神そのもの。
生まれ来る命をコントロールし、失われた命も無駄にはしない。
生殖医療を超え、生命科学の分野にまで入り込んでいると思います。
ただそこに、当事者をあまり尊重していない冷徹さがあります。

生まれる命、助かる命、結果的に別の命を救う命。
その中心にいる岸川自身の周辺には不審死が続きます。
妻。恋人。スタッフ。どれも病死や事故死として扱われますが、どうして誰も疑わないの? これ、怪しすぎでしょう??
それに死ななければならなかった理由が分からないの人がいるのも消化不良。

先端医療そのものもそうですが、それらをめぐる政治や駆け引き、裏切り。
そういった内容は、とても興味深かったです。

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