内容
国費留学生として、その後は研究者(教職)として、計11年間スイスに滞在した著者。
この本は、歴史、言語、交際、教育など、生活に密着した15の章に分け、著者滞在中の経験や見聞きしたことをまとめた1冊です。

10年以上前に書かれた本ですが、スイス人の生活は恐らく余り変わっていないだろうと思われます。

動機
史上最悪、といわれる現在の状況。
きっかけというか原因は、やはりサブプライムローン。

不況 → 金融 → 銀行 → スイス

私の思考回路は少し変なのかもしれません…。

不況については、今はまだその内容の本を読もうという気にはなれず、上記の流れでスイスの金融関連の本を読みたくなりました。

本当は『黒いスイス』という新書を読んでみたかったのですが、最寄の図書館になく、そうなると予約しないといけないのですが、私の場合制限一杯まで予約しているのでできませんでした。

ネットで在庫検索してみると、最寄の図書館にあるスイス関連の本はこれだけ。他はガイドブックのみ。
レビューなども確認し、金融関連の内容ではないけれど、内容は好評のようなので借りてみることにしました。

感想
スイスのイメージといえば、中立国、アルプス、ハイジ、セントバーナード、チーズ、安全、清潔といった、いささか曖昧なイメージばかりクローズアップされていたように思います。

中立国と頭では分かっていても、どのような歴史を持ちどのように自国を守ってきたか、しっかりと理解している人は少ないと思うのです。

『アルプスの少女 ハイジ』も、子供の頃アニメで見たことがありますが、原作を読んだことがありません。
カタツムリを食べるセントバーナード(原作にはヨーゼフは居ないそうです)と戯れ、藁のベッドで眠り、白パンとチーズを頬張る、そんな生活に子供ながら憧れていました。
その裏にある自然の厳しさを、考えたこともありませんでした。

そして私の中にあるスイスの印象は、子供の頃と余り変わっていなかったことに、この本を読んで気づきました。

建国、自然といった内容も含んで発展していく展開です。

面白い内容なのですが、読んでいてイライラしてしまう箇所も。
著者は理系の方なのですが、端的な文章ではなく、ちょっとクドイ。
それとユーモアがイマイチ…。笑えるところは良いのですが、滑っている(と私が思った)ところも。
持論は、少し極端かな、と思った点もありました。

興味深かったのは、スイスの教育。
小学校卒業後の進路としては、2つある。

1つは実業中学校。早く仕事につきたいと考えた場合に進学する。
こちらを選ぶと、一生の職業が決定となる。
選んだ職種が一つの称号となり、ずっとつきまとうという。
ただし、実業学校で選んだ職種と実際の職業が「一致しないことも少なくはない」そうです。

2つは進学中学校。もう少し勉強したいと考えた場合の進路。
さらにこの中学卒業後進学する高校にも実業と進学とに分かれていて、こちらも小学校卒業時に決めておかないといけないそうです。

どの学校に進むかによって仕事や賃金が決まってしまう。
つまり、小学生で進路を決定しなければならない。そしてその決定は生涯を左右する。

途中で気が変わったらどうするんだろう?
「一致しないことも少なくはない」という職業も、具体例は壷焼きを実業学校で修業し、ピエロになった方だけ。

住宅事情も興味深かったです。
色々なお家があるでしょうが、集合住宅にお住まいの著者の友人・エステルさん宅では、玄関はなさそうですが室内でも靴を脱ぐそうです。
また、1軒1軒洗濯機をお持ちではなく、集合住宅内に洗濯室があり、交代制で使うそうです。
「典型的なスイスの都市生活者」だそうなので、一般的と思っていても良いみたいです。

考えてしまったのは失業率について。
スイスでは兵役が、日本では高等教育が、それぞれ失業率低下につながっているという著者の説です。
これは納得できる面といささかの疑問をもちますが、自分が抱いたこの疑問点をうまく表現できません。
これに関わる本などを読んでみたいと思いました。

これからスイスに行く方なら参考になる、スイスに滞在したことがある方にはとても納得できる1冊ではないかと思うのです。
実際ネットで調べたレビューでは「スイスにいく前に読むべき」と、とても高評価でした。

スイスに行ったこともなければ、スイス人に会ったこともない私からすると、ちょっとピンと来ない点もありましたが、スイスの参考文献というよりも、スイスにまつわるエッセイとして、面白い内容でした。

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