内容
昨日に引き続き、池袋の果物屋店番兼“トラブルシューター”マコトが
主人公の『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ8作目。
こちらも最新刊ではありません。

シングルマザーと3歳の息子。
池袋をきれいにしようとゴミ拾いをはじめ一大グループとなり、
それをまとめるエリート青年。
元彼に脅迫されるSM好き少女と、少女を救おうとする元警察官。
派遣会社に搾取される日雇い青年と、フリーターのための労働組合のメイド服の代表。

シリーズ8作目、3作の短編と1作の中篇集。

動機
もともと本屋さんなどで『池袋ウエストゲートパーク』の最新刊『ドラゴン・ティアーズ』を知り、
読みたくなったのがきっかけでした。
最新刊を読むためには、今まで読んでいなかったシリーズを読んだ方がいいだろうと。

こちらも図書館で借りました。

感想
う~ん、何と言うか「キレ」を感じない…。
社会情勢をテーマにしているだけに、「キレ」は大事だと思うのですが。

それに先がもう読めてしまう。だからこそ安心して読めるともいえるのですが、
キレがない分、鋭さがない分、このシリーズの魅力が半減してしまっていると思いました。

それに同じような表現が目立つのもその一つかな…。
「透明な家族(1作目)」「透明人間(4作目)」、
さらには契約社員たちのために家を作りたいと言った青年の話の後に、
日雇い青年たちの難民生活。
この流れにしては、マコトが鈍すぎるのです。

契約社員として深夜まで働く若きシングルマザーが、
ほんの一日息抜きをしようと3歳の息子を家に残して外出したら、
息子はバルコニーから転落。
軽症ですんだが、どこで調べるのか嫌がらせの電話や取材で、
母親は精神的にナーバスになる。
この1作目は、マコトのおふくろさんが活躍します。

日米の大学を優秀な成績で卒業したエリート青年の実家は、
池袋に聳え立つ超高層ビル。
父親の個人資産は1兆を越える。その青年が誘拐された。

SM好きで脅迫された少女は、
それでも現役警察官の父に迷惑を掛けたくないとマコトに相談し、
その父は娘を助けたいと元部下に相談する。

そして4作目。初出誌でも2回に分かれた中篇です。
日雇い暮らし、ネットカフェ難民なのは自分の責任とそれでもまじめに働く青年。
派遣会社グッドウィルを題材にしたと思われる作品です。

派遣会社社長の贅沢。正社員たちの過労死寸前のサービス残業。
二重派遣、港湾派遣、労災隠し。
「インフォメーション費」として日雇いの給料から引かれる200円。

組合とともにこの200円を追求した日雇い青年たちが襲われる。
マコトのおとり作戦が功を奏し、この襲撃事件の犯人が分かるのですが、
結局は労働組合の代表の存在が全てと言えそうな内容です。

何と言うか、事実をただ記載しただけのような、そんな印象なのです。
マコトが見せる正義感も、視点も、余り鋭さを感じないのは、
この問題が大きくマスメディアで取り上げられ、
特に金融不安以降の派遣切りの現状を読んだ側からすれば、
物足りなく感じるからなのかも知れません。

マコト自身も年収200万円の底辺だ、明白な負け犬だと言っている場面があります。
ですが、それを書いている、マコトに言わせている作者は
ベストセラー作家の富裕層なんだよなあ…。
そんな冷ややかさまで抱いてしまいました。

日雇いの貧しさの中、自分の尊厳をぎりぎり守ろうとする青年の姿。
実際に居るであろうその姿は、切なさと美しさと共に
その頑なさから、悲しみも感じるのでした。

memo
「「なあ、マコト、わたしは六十年以上生きているうちに、その普通ってやつがなんだかよくわからんようになったよ。おまえのいう普通と、わたしの普通、お嬢さんの普通と池本の普通、みんなそれぞれ別なんだろうな」
(略)そいつはおれも大人になるたびに感じてきたことだった。逆に言えば普通であることほどオリジナリティあふれている状態はないのかもしれない。(140頁)」
(元彼に脅迫された少女のために動く元警察官大垣の言葉に、マコトが思ったこと)

“皆違って、皆いい”のですが、やはり自由とワガママを履き違えてはいけないのです。普通であること、常識的であることは大切なことだと思います。

「「ぼくひとりになにかをしても無駄だよ。ぼくみたいな生き方しか選べなかった何千人か何万人の人のために、みんながなにをできるか。マコトさんは文章を書く人なんでしょう。それを考えてみてよ。ぼくは自分のことは、自分でなんとかするから」
(略)壊れたひざを抱えたまま、全財産はほんの数万円で、東京には頼る人間もなく。それでもサトシは自分には手を貸さなくてもいいという。
勇気と言う言葉が、本当はどんな意味か、おれはその時サトシに教えられたのだった。自分が最悪に苦しいときに伸ばされた助けの手を、別のもっと苦しい人間にまわしてやれる。(129頁)」
(襲撃された日雇い青年サトシに何かしてやれないかと言うマコトへ、サトシの言葉とマコトが思ったこと。)

でも、サトシの頑なさが悲しすぎる。これは、この状態のこの言葉は、勇気なのだろうか。

「仕事は誰でも金のためにやる。だが、同時に自分でなくてはできないかけがえのなさや誇りがもてない仕事は、人をでたらめに深いところで傷つけるのだ。(222頁)」
(おとり作戦のために日雇い派遣に登録、実際に仕事をしてネットカフェで睡眠を取るマコトが思ったこと)

その通りです。

コメント